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就活
コラム
機能性化学品開発の現場で求められる「気付き」と「追求」
丸善石油化学株式会社[修士卒/研究職]
業種[石油化学/高分子/化学工学]
「先輩インタビュー」第十四回では、国内最新・最大級の規模の石油化学プラントを保有しており、自動車・住宅・家電製品・繊維・日用品・光学材料など、私たちの日常生活に欠かせないものの原材料を製造している丸善石油化学株式会社。今回は世界ナンバー1のシェアを持つ、半導体の製造過程で必要とされるレジスト用のポリマーの開発部署で活躍されているKさんにお話を伺ってきました。


「考えながら行動する」という意識の在り方・・・
本日は宜しくお願いいたします。Kさんは入社されて何年目になりますか? 

K 3年目になります。

Kさんは今、どちらの部署でどのようなお仕事をされているのでしょうか? 

K 現在は機能性樹脂開発課というところに所属しており、今後需要が見込まれる開発品のスケールアップと、顧客が使用している現行品の処方検討を担当しています。

スケールアップというと、ラボレベルから大規模製造へ、という感じでしょうか? 

K そうですね、基本的には500L程度へスケールアップしていく業務になります。

なるほど。小規模・中規模からスケールアップをしていく業務には色々と困難な部分というものがあると思いますが、Kさんから見て、この業務の難しさを感じる面とは、どの様なところにあると思いますか? 

K 学生の頃は、研究というのは中長期的に行うものだと思っていました。イメージとしては、こちらで良いものを作って、製品として出来上がったらそれを顧客に売りだしてくというスタンスですね。もちろん当社にもそのような基礎的研究を行う部署はありますが、私の所属する部署ではまず顧客がいて、顧客からのニーズに基づいて製品を開発するというスタンスです。顧客がいる以上、納期は厳守でスピーディな対応が常に求められます。そのあたりは難しさを感じますね。

スピーディな対応といいますと、研究スパンとしてはどのくらいの期間での対応になりますか? 

K そうですね、分野や用途にもよるのですが、短くて2週間以内、長くて半年ほどでしょうか。

学生の頃の研究とは大きく違いますね。 

K はい。学生の頃ですと一つのテーマについて2年間じっくり取り組むので、大きな違いですね。企業の場合は効率のよさが求められます。

その「効率のよさ」というところについて、具体的にはどんな取り組み上の違いがあるのでしょうか? 

K 正直なところ、私が学生の頃は「とりあえずやってみよう。実験結果が出てから考えよう」というスタンスだったんですね。結果を見て「もしかしたらこういう現象だったのかもしれない」とか「この結果はこういう関係があるね」ということを後から考えていたように思います。

なるほど。 

K しかし企業の研究現場では、正解だと思う方法を予測して、その正解への道を考えながら実際にやってみる。想定通りならば良し、想定通りにならなかった場合はそこでなぜ違ったのかを考える形で取り組んでいます。事前にある程度当たりを付けて取り組むことが効率のよさに繋がっていると思いますね。

大体の人は「やってみてから考える」というスタンスが多いかもしれませんね。 

K 勿論、やってみないと分からない事も有ると思いますが、「事前に予測をたて、その上で考えながら行動する」という意識の在り方というのは、効率的に業務を進めるためには必要なことだと思います。学生時代はデータさえあれば、後から色々と組み合わせて取り繕えたと思いますが、企業に入ったらそういう様にはいかないことも多いです。土台となる知識を身に着け、考えながら行動する意識を早めに持っておくといいと思います。




学びたいものを突き詰める・・・
学びたいものを突き詰める・・・
ちなみにKさんの学生時代は、どの様な研究をされていたのでしょうか? 

K 大学4年の頃は、ソフトマター物理学というものを研究していました。

ソフトマター物理学、ですか。 

K ソフトマターというのは柔らかい物質の事ですが、ゲルの力学物性の研究をしていまして、初めの頃はゲルを引きちぎった時の亀裂の進展のメカニズムなどをやっていました。

それはとても興味深い研究分野ですね。 

K ただその後、自分でゲルについてある現象を見つけたんです。ゲルは元々柔らかくすぐに千切れてしまう物質で、アルコールの中にいれると萎んで硬くなります。しかし、ゲルを水とアルコールの混合溶媒に漬けておくと、元の20倍以上に伸びを持ったゲルが出来ることを見つけたんです。

それは驚きですね。 

K 自分で発見したので是非ともそれを研究テーマにしたいと思ったのですが、発見した時期が大学4年の10月くらいで。

それは、卒論発表まで時間が無いですね。 

K 普通に考えれば無謀なのですが、これは何とかやりたいなと思って。卒業までにやり遂げました。

まとめ上げたのですか?それはすごいですね。 

K やはり自分で発見したからこそ突き詰めたいという思いが強かったんですよね。

なるほど。そうして研究をまとめ上げて修士に進まれたんですね。 

K 修士には進んだのですが、修士ではまた別の研究をしました。

別の分野に進まれたのですか? 

K はい。大学4年時の研究室は予算の関係などで、やりたい研究が出来なかったんです。ですので、修士では他の研究室に移って研究をする決断をしました。



ニーズに応えていく現場・・・
そうした中で、就職活動で企業探しを進められていったと思うのですが、その際の軸になったポイントはどのようなところでしょうか? 

K まず一つは、身の回りに使われている石油製品に携わっている企業であるということ。次に大学院でデバイス関係の事も勉強していたので、それに関連した研究が出来る企業であるということです。

なるほど。 

K 私は元々化学分野を志望していたのですが、大学は主に機械系の学部で、院に進んで化学の方面へ近づけたという感じだったので、就職する企業については化学系企業が望ましいなと思っていました。

そうした選択肢の中で、丸善石油化学へ就職されたわけですが、就職活動当時に思い描いていたイメージと、実際に現場で働いてみて感じ取られたイメージとに違いなどはありましたか? 

K そうですね。まず働いている社員がいい人達だなという印象は、就職活動当時も今も変わらないですね。

就職活動当時から、そのように感じられていたんですか。 

K はい。とても人当たりが良くて、いい風土が培われているなという印象は変わらないですね。研究所内はとてもフランクでアットホームな空気感があって、働きやすいです。

逆に、当初の印象と違いを感じた部分などはありますか? 

K 当初は、企業として基礎化学品で収益を上げているように思っていましたので、機能化学品についてはこれから少しずつ力を入れていく感じで、研究にそれほど力を入れていないのかなという印象を持っていました。しかし実際に入社して働いてみると、機能化学品事業においても多くの収益の柱を創出できるように研究開発についても力を入れていることが分かりました。顧客からの引き合いも多いので、思った以上に成長性を感じていますね。

具体的に業務の中のどういったところでそれを感じますか? 

K 本当に顧客からのサンプルワークの要請が多いんです。今は「ものを作ってほしい」というニーズに対応するのに必死という状況で、それだけ需要や将来性があるという事の現れだなと感じています。

大変ですが、それはやりがいにも繋がりますね。 

K そうですね。そうしたサンプルワークからスケールアップとなって、大型の収益に繋がっていければ良いなと思いますね。




現場で求められる「気付く力」「追究する力」・・・
現場で求められる「気付く力」「追究する力」・・・
少し視点が変わりますが、今振り返ってみて学生時代の経験の中で「今活きているな」と感じることなどはありますか? 

K 私が学生時代に行っていた研究というのは一回の測定に時間がかかるもので、その上再現性も取らなければならなかったので、気づいたら朝になっていたこともありました。それでも、分野的に解明されていないものでしたので、上手くいかないこともよくありました。そのため、「研究というものは、スムーズには上手くいかないことが前提なのかな」という意識が自分の中で出来ていったように思います。

なるほど。 

K そういった経験から、研究の中でどのような壁にぶつかってもポジティブにとらえられるような心の耐性が付いたように思います。それが今の仕事の中でも活きているなと感じるところですね。

逆な見方として、学生時代にもっとこういうことを経験しておきたかった、という様な事はありますか? 

K やっぱりもっと勉強しておけばよかったな、と思う事は多いですね。

もっと勉強ですか? 

K 私が機械系出身だからという事もあると思いますが、学生時代にもっと化学について勉強しておけばよかったなと思いますね。会社に入ってからですと、やはり学生時代と同じだけの勉強時間というのは取りにくいものですので。

仕事の中でそれを感じる場面というものはありますか? 

K ありますね。例えばあるものを二つ混ぜると物が出来ますが、それと併せて副生成物も出来るんですね。分かる人からすると、合成する二つのものを見ればその副生成物が生じることは当然に予測が出来て、事前にどうしようかという対策を立てられるんですね。そうすると、先ほどお話した「予測をたて、考えながら行動する」という事が出来る。それが分からないと、実際に合成してから悩むことになり、効率が悪くなってしまいます。私は有機合成の勉強をしたことがなかったので、知識が足りず、苦戦しましたね。ただ入社後に勉強する機会もあるので、学生時代の専攻が異なっていたとしても自分の努力次第で大いに活躍出来ると思います。

たしかに知識が無いと、知っていれば防げたのに、という事態を招きやすいですよね。 
 そうした観点も含めて、逆にどういうタイプの学生の方が自分の現場では活きるな、と感じますか? 

K そうですね、細かいところにも気づきがあり、その気づいたところを追究出来る人でしょうか。ちょっとした異常などにも気づく力は企業の研究現場において大事だと思うので、そうした気が付いたところに対してしっかり追究する力を持った人は活きると思います。

なるほど。確かにそうした細かい異変に気づいて追究していくことで、先ほどのお話にもあったような新しい事象の発見につながっていけるわけですよね。 

K そうだと思います。日頃やっているサンプルワークというのは「作業」になりがちなんですね。上司や先輩の中でも凄いなと思う人は、その何気なくやっている基本作業の中でも「ここはもっと改善の余地があるよね」と気づくことが出来るんですよね。大きな発見でなくとも、気づいて課題としてとらえる力があると、日頃の基本作業の中でも改善提案に繋げていくことが出来て、これはとても大切なことだと思っています。

自分もそうですが、ルーチンワークではどうしても思考停止しがちですよね。そうした中でも目を光らせてより良い方策を探し出せる力というのは大事ですね。 

K そう思います。

仮にKさんが採用面接の場などで学生の方を見る機会があった場合、そうした要素をどういったポイントから見て判断しますか? 

K 面接の場などでは研究内容や取り組みについて聞くと思うのですが、その時に目的を持って取り組んでいる人はいいなと思います。そういうところから自分で考えて主体的に行動出来ている人かどうかということも見えてくると思います。研究室の流れでなんとなく研究をしているのではなく、自分の研究をこう活かしたい、という熱い気持ちが窺えるかを見たいと思いますね。

ある意味、研究を自分のものにしているか、という感じですね。 

K そうですね。研究で何をしたかという成果ではなく、そういう意識や気持ちの部分が大切だと思いますね。

なるほど。そうしたポイントも含めまして、最後になりますが、これから就職活動に挑む学生の方へアドバイスなどお伺い出来ますでしょうか? 

K 先ほどの話とも繋がると思いますが、研究をやっている中でも細かいところにも目を向けて、そこで気づいたことに熱意をもって突き詰める気持ちを持ってほしいなと思いますね。日ごろの研究生活では、漠然と実験と向き合って「やった結果から考える」のではなく、あらかじめ結果を予測しながら「考えながら行動する」姿勢を意識するようにしてほしいです。

なるほど。
本日は貴重なお話を聞かせて頂きまして、ありがとうございました。


K ありがとうございました。



【文責:(株)スプラウト 分須弘二】